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カリキュラムの一つ「特別講義」では、産業界・官界で活躍する様々なリーダーを講師に招き、各界の課題や展望、求められるリーダー像などをご教授いただいています。
講師の皆様が講義に込める思いや、MERITに期待するものとは何か、お二人に伺いました。
2016年7月に行ったMERIT特別講義は、兵庫県にある弊社研究所で実施し、社員と一緒に聴講していただきました。学生の皆さんに人事や広報を介さず直接現場に触れていただきたかったからです。私がMERITで講義する機会をいただいた理由は、企業が長年にわたり大学と離れて活動してきたことへの反省の意味もありました。私共がFAシステム事業を通じて海外と多く接する中で実感してきた、今後の社会に役立つ人材像をお伝えすることで、将来的に自社他社問わず世界の産業界を担う人材の育成に繋がればという思いでお話ししました。
世界では今、スマート化社会の実現に向け、100年に一度の産業革命が始まっています。政策的にはアメリカを発端に分散協働型社会への転換が図られ、また半導体業界も生き残りをかけて新たな市場を求めています。さらに、IoTやAIによって人や機械、工場や各事業所までもが繋がることであらゆる業界が繋がるために、グローバル企業が最高最適な人材や工場を選んで発注する環境が整います。様々なフェーズでIoT/AIへの強いドライビングフォースが働き、東京オリンピックの頃を目標にものづくり産業構造そのもののパラダイムシフトが起こりつつあるのです。
そこでは三つのビジネスチャンスがあると私は考えています。一つにはスマート化を阻むボトルネックの解消です。その課題解決を図るためには、業界を知り尽くし、かつ影響力のある人と話す必要があります。二つ目は、スマート化への大きな流れをつかむことです。そのためにはお金の流れを生み出す投資家と連携を図る必要があります。そして三つ目には、国全体が目指す超スマート社会に寄与することです、そのためにはビッグピクチャを構想する人に、産業の現場の情報を提供しながら関わっていくことが必要です。いずれの場合も、異分野の人とのコミュニケーションが不可欠です。
このような時代に期待される人材には、二つのタイプがあります。まず、専門領域を究め、組織のあらゆる階層の知識を網羅し、全てのメンバーと交流可能な人です。私共の事業でいえば、量子力学から材料力学、制御工学など、ものづくりに必要なあらゆる領域に詳しく、関係者と「keep in touch」ができる人材です。そしてもう一方は、ものづくりとは対照的に「コトづくり」を目指すタイプ。市場が求めるコトの実現に向け、問題解決に必要な専門家を都度招集してインテグレートする「win-win or no deal」が可能な人材です。現場では、この両方が必要とされます。MERITでこのような人材が育っていくのを大いに期待しています。
企業活動のグローバル化に伴い、組織力の強い日本でも個人のレベルアップが必要な時代になっています。特に博士課程で一つの分野を深く掘り下げた経験を持つ人は、異分野にも深くダイブできるスキルを身につけているため、ドクターの人材は一緒に仕事する相手として信頼されます。私共企業側としても、そうした優秀な人材が最大限に力を発揮できる環境を提供して行きたいと思っています。(談)
科学技術は、国境や産学の垣根を問わず知的に刺激し合いながら発展していくものですが、日本ではそのような交流が欧米や中国等の新興国ほど増えていないのが実情です。国全体の財政が厳しい中で、文科省としても知恵を絞らなければなりませんが、その背景には、日本では企業が技術開発を自社で抱える自前主義が従来根強く、オープンイノベーション志向の欧米等と比べて民間が大学に投じる研究資金も決して多くないといった要因もあります。このような、垣根を越えて交流できる、挑戦的な人材を育成するための一つの施策がMERITであると認識しています。
新しいサイエンスは異分野の融合から育つことが多く、大学で生まれた一つの基礎研究から共同研究、産学連携と次第に大きな流れになり、後の世界を大きく変えるイノベーションに繋がる事例は国内外にいくつもあります。そうした流れを創るには、研究と実社会、ミクロとマクロの視点を行ったり来たりできる人材が必要です。サイエンスに軸足を置き目前の研究を丹念に行いつつも、この社会が何を求めているか視野を広げて見ることが大切なのです。
今後活躍が期待されるこうした人材を、私は中間人材と呼んでいます。例えばベンチャーキャピタル(VC)には、研究の最前線にも市場動向にも精通し、「技術の目利き」ができる中間人材が不可欠です。VCが隆盛なアメリカではGoogle社のように世界的なインパクトを持つ企業が続々と生まれます。日本では2000年前後から大学発ベンチャーを増やす政策が進み、現在では30社超の企業が上場し1兆円を超える市場価値を形成しており、また、IT関連企業を中心に、成功が投資を生むベンチャーの生態系が進展しつつあります。これを少しずつ、よりサイエンスヘビー・キャピタルヘビーに生態系として拡大していくことが大切であり、AIやロボティクス関連などに加え、今後、材料関係ベンチャーもそうなっていくのではと考えています。
もう一つの中間人材として期待されるのが、プログラムマネージャー(PM)です。PMは政府機関の一員として機能するもので、実社会に役立つ革新的技術を目標設定し、その実現に向けて有望な研究に研究費を支給し全体をマネージするとともに、その成果を産業や社会に繋げる役割を果たします。日本でも数年前からJST(科学技術振興機構)のもとでPMが活動を始めています。
PMに限らず、広く科学技術行政に携わる私たち文科省職員も、日々研究の最前線を知り研究者と意見交換を図ることでより良い施策を目指しています。行政においても、産学の様々な立場の人と話ができる中間人材の資質が重要なのです。
MERITの特別講義でこのような人材ニーズを話したところ、学生から「文科省と大学を合わせて初めて日本の研究の発展が可能になることが理解できた」「PMに興味を持った」といった反響を得て、科学技術行政に携わる者として大変頼もしく感じました。物質科学、材料研究は日本の要であり、その優秀な研究者を育むMERITは大変意義深いプログラムです。MERIT卒業生には分野を問わず大いに挑戦的なテーマに取り組んでいただき、サイエンスのブレイクスルーを起こす研究者としてあるいは中間人材として、国民に裨益する大きな仕事をしていただけるものと期待しています。(談)
(2017年1月取材)